FEZ小説 独立戦争編

ラナス城は、昔は難攻不落の天然要塞と言われる程の城だった。
渓谷は起伏が激しく、攻め難し守り易しの地形になっており、野生には非常に手強いハーピィが生息していたためである。

ハーピィ達は優れた知能を持ち、常に集団で活動し、狩りの時も連携を絶やさないと言われていた。
ラナスの人々はハーピィと協力関係にあったわけではないが、強烈なハーピィ達をいなすことができる程度の技術を持っていたとされている。
そのため、ラナスの人々はあえてハーピィを野放しにし、天然の防衛兵としていた。

そのため、どんな国の、どんな強力な部隊も、ラナス城に攻めようとはしなかった。
それは、ゲブランド帝国の軍隊も例外ではなかった。

しかしある時、一つの大きな集団を形成していたハーピィ達が忽然と姿を消した。
この機に乗じたゲブランド帝国軍の手により、ラナス城はいとも容易く陥落してしまった。
このハーピィ達が消えた理由は現在も不明である。
一説には、狩場を変えたとも言われているし、逆に人間たちに狩り尽くされたとも言われている。

現在では、既に人はほぼ生活しておらず、荒廃した建築物が数多く残っているだけの渓谷と化している。
人が居るところといれば、ラナス城跡地の占領拠点ぐらいだろうか。
他にも、モンスターも寄り付いておらず、ここには小動物を除いてこれといった生物が見当たらない。

そして、今ここはゲブランド帝国が占領している。
ラナス城跡地は、エスセティア大陸の中央から西部寄りに存在しており、反乱軍との戦線とは比較的離れている。
しかし、反乱軍がこちら側に侵攻しないとも限らない状況だ。

ラナス城跡地に到着したフィルは、馬車から降りた。
そこから見えるのは、ボロボロになった建築物達の群れ。
その中心に位置する高台には、今にも崩れ落ちそうな城が見える。あれがラナス城跡なのだろう。

「あんた、こんな僻地に用があるのかい?それとも軍の方かい?」

周りを見渡しているフィルに、馬車の御者が尋ねてくる。
それほど、ここには何もないということが一般にも知られている。
あるとすれば、ゲブランド帝国の占領拠点が一つだけ。

「後者ですね」

他にも、この厳しい起伏を利用して崖登りを嗜む物好きな人間が稀に居たりするが、彼はそんなことをしにきたわけではない。

「人を探しています」
「へえぇ……お疲れ様でございやす。
 それでは、足元に気をつけていってらっさいやせ」

そう御者が言うと、馬車はさっさと走り去っていった。
そしてまずフィルは、ここの占領拠点へと向かった。情報を得るためだ。

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