FEZ小説 独立戦争編

「貴方がここ、ラナス城跡地の統括官ですね」

ゲブランド帝国の拠点に入ったフィルは、その奥に居る統括官らしき人物と会うことができた。

「そうだ。俺がここの統括官だ」

統括官らしき人は、新聞を読みふけったまま適当に返事を返している。
防具はソルティア一式を装備し、壁には赤い剣と赤い盾が立てかけられていた。恐らく彼は片手ウォーリアだろう。
手に持っていたコーヒーを一口飲んだ統括官は、椅子をくるりと回し反転すると、フィルの姿に注視した。

「お前さん、見たところ軍の人間だが……」
「ゲブランド帝国正規軍第一部隊【ナショナル・ギャラリー・テラーズ】所属、フィリップ・スコット・ランスです」
「……正規軍第一部隊所属?……マジかよ!」

統括官はそう言うと、慌てて新聞を閉じ、立ち上がって敬礼した。

「……失礼した、ラナス城跡統括管理担当のホルスター・ビーハイヴだ。まあ、座ってくれ。」

フィルは、統括官室のソファに座った。少し硬い。

「こんな何もない僻地にようこそ。コーヒーでもいかがかな?」

フィルの父、ライオネスが率いていた第一部隊は既に壊滅状態であった。
そのことはあえて伝えなかったが、何も聞き返してこない様子を見るにまだ知られていないのだろう。
軍全体の士気に影響するためか、理由はよくわからない。

「……では、せっかくなので頂きます」
「本っ……当に素晴らしい豆を使ってんだ。味わって飲んでくれ」


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「さて、第一部隊のフィルさん、ストリクタ大陸から長いこと時間掛けて来たとは思うが……一体ここに何の用で?
 まさか俺の昇格?」

ホルスターは目を輝かせてフィルを見る。
どうやら彼は出世を狙っているようだ。僻地の統括官という時点でかなり危ういと思うのだが……。

「……違いますよ。ただの私用です」
「はあ……昇格じゃないのか……」

ホルスターは肩を落とし、また新しく注いだコーヒーに手を付ける。

「それはさておき、何もないこのラナスの地に私用とは……お前さんも面倒臭いことになってるんだねえ」

昔は難攻不落の天然要塞として栄えていたラナス城、確かに今は見る影もない。
ただフィルは、その『何もない』ということが一番気になっていた。

「いろいろな人から、ここには何もない、何もない、と聞くのですが、本当にここには何もないのですか?」
「そうだな。ラナス城跡も探索済みだ。我々にとって重要視すべきものは特に見つからなかった」
「そうですか……」
「ただ一つ、ラナス城跡近くに、まだ人が住んでいる屋敷が残っているようだ」

ホルスターは、彼の机の上から資料を探すと、フィルの前に差し出した。

「外見は非常にボロボロなんだが、そこだけは人が住んでるから『住居扱い』でさ、令状なしには捜索できないんだよなぁ。
 そのボロ屋敷1つ捜索するためだけに、わざわざ本国に令状を貰いに行くのもかったるいんだよねぇ。」
 
彼はそう言って立ち上がると、棚からこのラナス城跡地周辺の地図を取り出し、机の上に広げた。
そこに、丸印で囲んである部分があるのがフィルには分かった。ここが、恐らくその屋敷なのだろう。

「誰かの別荘だ、って話はあるが、調べてみるにラナス城陥落以前から存在する屋敷のようだ。
 もしかしたら……そこに何かあるかもしれないねえ」
「そうですか……では、そこに行ってみるとしましょう。わざわざありがとうございました」
「力になれて何よりってやつだ」

フィルは一礼をすると、統括官室を出ようとした。
その時、ホルスターはハッとした表情になり、急にフィルを引き止めた。

「ちょっと待て」
「どうしたんです?」
「その腰の剣だよ……あまり見かけないんだが前にもどこかで……」

どうやらフィルの腰の剣を見て、何かを思い出したようだ。

「……そうだ、その屋敷に出入りしていた人間の情報があったんだ。
 そいつも、お前さんが腰に帯びてるモノと似たような武器を持っていたらしい。
「これと同じ……?」
「ああ。お前さんもウォーリアにしては変わった人間だと思うが、そいつもお前さんと同業者かもな」

(ということは……僕や父上と同じ……フェンサーがまた別に居るということ……?
 父上は、その存在を僕に伝えたかったのか……?)

フィルは拠点を後にして、そのラナス城の屋敷へと急いだ。

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