刺突剣を持つ二人が、お互いの間合いの中で刹那の戦いになった。
フィルは、相手の攻撃を読みストライクダウンの構えを取ることを選択した。
そこに彼女の攻撃が――
――来ない。
「……ん?」
よく見ると、真正面に立つ彼女も、刺突剣を縦に構えている。
型は違えど、恐らくこれもストライクダウンなのだろう。
こちらが手を出せない有利な状況で、彼女はストライクダウンを構えていた。
それは、お互いが見合う形でストライクダウンを構える光景となり、傍から見ればそれはとても滑稽だろう。
「……」
「……」
お互いに、構えを崩さないまま謎の沈黙が続く。
「……くっ……はははははは!!!」
「え……!?」
そのシュールな様子に耐えられず、笑いを吹き出し、沈黙を破ったのは彼女だった。
それに思わず驚くフィル。
「……ああ、すまない。私の父から『ストライクダウン同士で見合うと面白い』と言われたことがあってな。
一度試してみたかったのだ。まあ『腕試し』も兼ねてはいたがな」
「そういうことですか……通りであなたの攻撃には殺意が無いわけだ」
彼女のどの剣閃も、急所を外した位置を狙っていたことにフィルは薄々と気付いていた。
緊迫した雰囲気だったので言い出しづらかったが、彼はようやく確証が持つことができた。
「殺意がないのは当たり前だ。知人を刺すバカがどこに居るか」
「知人……?」
「ん?お前の父殿から、私の父や私の話は聞いていないのか?」
フィルは、昔言った父の言葉を思い返していた。
『そーいえば、フィルには言ってなかったかな。
実はな父さんには、唯一無二のフェンサー仲間が居てな。
昔はよく二人で実力を試しあったりしたもんだ。そして終わった後の酒がまた……
……おい、人の話がつまらんからってシエルちゃんの方は見なくていいだろ!
人の話は話す人を向いて聞け!!』
彼は確かにそんなことを言っていたようなことを思い出した。
別に思い出さなくていいことも思い出してしまったが。
「確かに言ってました。『唯一無二のフェンサー仲間が居る』って」
「それが、私の父、ハーデクだ。既にこの世には居ないがね。
ライオネス殿のご子息、フィリップ殿だな」
そのフェンサーの彼女は帽子を取り、深く礼をした。
フィルも同じように帽子を取った。
「父殿の訃報は伝わっている。フィリップ殿の無念の気持ち、お悔やみ申し上げる」
「フィルでいいです。僕は昔からそう呼ばれてましたし、フィリップだと堅苦しいでしょう」
「……では、お言葉に甘えて『フィル』と呼ばせて貰おう」
「おっと……あなたの名前を教えて頂けないでしょうか」
「何だと思う?」
「いや、そんなの分かるわけないじゃないですか……」
彼女は脱いでいた帽子を被り、その右手を正面に差し出した。
「……クヌートだ。同じフェンサー仲間としてよろしく頼むよ」
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