フィルがラナス城跡地に滞在したのはわずかな期間だけであったが、
フィルの父が言った通り、他にフェンサーの道を進む同志が居ることや、
素晴らしい刺突剣を得たこと等、確かにフィルの手助けとなる形になった。
ただ、そんな彼はもうこの世にはおらず、そして彼が率いていた第一部隊を、代わりに率いることになったのはフィル自身である。
フィルは久しぶりに、第一部隊のブリーフィングルームへと足を踏み入れることになった。
「……では、これより部隊会議を始める」
今回の会議の目的は、元第一部隊の面子や、新たに参入する他部隊の代表と顔を会わせること、
役職の設定、軍団の設定、軍団別の戦力の分配等があった。
「皆様、私が、前第一部隊における参謀のディラン・スカラブレックであります。
この会議の進行役を務めさせていただきます」
「私が第一部隊長のフィリップ・スコット・ランスです。よろしくお願いします」
適当な挨拶を済ませ、フィルは名簿を確認する。
元第一部隊が自分含め10人足らず、他部隊ごとの代表が4人。実際には、他部隊員の割合が比較的多いようだ。
「……では、まず役職や軍団設計の件ですが、フィル様、何か案はおありでしょうか?」
「そうだな……部隊の副隊長には、ディランと、元第一部隊の二人、ジャックとイヴを置きたいと思ってる」
そして、フィルは他部隊の代表に向けて言う。
「他の部隊からやってきた者達には悪いが、あまり役職は与えてやれない。
相応の役職がほしいなら、僕の前で相応の活躍をしてくれ。そっちの方が君たちもやりやすいだろう」
やはり、信頼できる人間を優先して身近におくべきだろうと、フィルは考えていた。
「部隊の参謀にも、前部隊と同じくディランを任命することにする。
以上が、僕の案だ。ディラン、副隊長と兼任する形だが、君ならできるだろうか?」
「尽力させて頂きます」
副隊長と参謀を兼任することになったディランは、深々と頭を下げた。
「そして、軍団の方も各参入部隊の代表を軍団長にして、副軍団長に一人ずつ、元第一部隊の人員を配置する。
残りは元第一部隊の二人と、ディランの軍団と、そして僕の軍団だ。これに異論はないかな?」
部屋内の全員がフィルに同意の拍手をする。異論は無いようだ。
「軍団別の戦力は、他部隊員が前とほぼ変わらないように戦えるよう、それぞれの軍団長の元に――」
「一つよろしいか」
すっ、とブリーフィングルームの奥の方で手が挙がった。
実力のあるウォーリアのみが身に付けられる、パーシヴァル一式防具を装備した男が、そこには居た。
彼は元第一部隊のジャッカード・ウルフスタインだ。彼を見知る者は皆、彼をジャックと呼ぶ。
「確かに『前部隊と同じような軍団を構成する』と部隊員の士気は維持できるが、軍全体の統率は取りづらいと思われる。
それより、指揮能力のある人間に多くの戦力を分けた方が、軍全体の統率は取れるのではなかろうか」
「確かに一理あるか……」
部隊内で最も指揮能力があるのは、その才能に裏付けされた能力の持ち主しか居ないだろう。
「……ディラン、任せられそうか?」
「問題ありません」
彼は表情を変えることなく応答した。このあたりも彼のすごいところだと、フィルは常々思う。
意見を挙げたジャックも、納得した表情をしている。
「では、次に……」
日も沈み、街が暗闇に包まれる頃、長かった会議もようやく終了した。
フィルは、部隊寮のテラスで、外の風を浴びて涼んでいた。
「会議がこんな大変だなんて思わなかったな……
部隊長ってだけで、こんなに変わるものだなんて……」
「フィル様、お疲れ様です」
背もたれのある椅子に腰かける彼に、常に隣に居た男が声をかけた。
「デュラン、いろいろ仕事を押し付けてしまって済まない。
僕が幼い頃から、いつも君に苦労をかけてばかりだな」
「そんなことはありません」
「いや……まだまだ、僕も『坊ちゃん』ってことだよ」
フィルは大きく息を吸って、再び外を見る。
点々と見える街の灯が、会議で疲れた体と心を癒してくれるような気がした。
(本当に、僕程度の人間が、部隊長を務めて良いのでしょうか……父上……)
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