FEZ小説 独立戦争編

「全員着いてきているな」
「ねえ……ほ……本当にやるの?」
「何だどうした?今更怖じ気づいたか」
「あなたも名門家出身なら、もう少し堂々とした態度をしたらどう?  で、そんな肩書きのくせこんな汚れ仕事やってるあたり、まったくエイトフォール家も没落したものね」
「……」
「余計な会話はするな。ともかく、この作戦を成功させない限り、我々に未来はない。行くぞ」


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フィルが部隊長になり、数日が経過した。
未だに会議はちょくちょくと開かれているが、部隊内部の構成も落ち着いてきて、そろそろ前線に出陣してもおかしくない頃合いだ。
そんなブリーフィングルームでは、本人曰く家庭の事情により今回欠席したデュランの代わりに、部隊長のフィルが進行役を務めていた。

「――父上は一人で部隊を引っ張っていたが、
 正直な話、僕や父上の戦闘スタイルは、少数戦や乱戦には向くものの、大規模な戦線には向いていない」

フェンサーの真価は、1対1の強さにあるのだが、残念ながら戦争は一人で戦える程甘くはない。

「そこで、主戦場の大まかな指揮は、デュラン・ジャック・イヴらに任せて、
 別に僕を軍団長とする『別動隊』を設立したいと思う。
 これは少人数からなる軍団で、主に敵戦力の薄い所を攻撃し、こちらの戦線の押し上げる手助けをしたり、
敵の深部に侵入して、内部から敵部隊に攻撃を仕掛けたりする軍団だ」

フィルは、不利な主戦場で戦うよりは、有利な少数戦で戦った方がよいという結論に至った。
これは、クヌートと共にフェンサーを研究した際に導いた結論の一つである。

「詳細は追い追い説明する。少し早いが、以上で本日の会議は終了だ。これにて解散」



その夜、フィルは自らの提唱した『別働隊』について、一人で物思いに耽っていた。

(少数で切り込む以上、攻撃と撤退のタイミングは普段より大切だ)

(自分なら足を活かして簡単に撤退することができるだろう。しかし、それでは仲間を見殺しにすることになる)

(ただ、遅れた仲間をいちいち助けていては、それこそ軍団全滅の流れだ)

(採用したいのは、ある程度足が利いて、単独でもそこそこ戦える人間か……)

ふと、部屋の外で誰かが走っていく音が聞こえた。
さすがに、キーンセンスは物体の向こう側までは把握できず、誰が通ったとかは分からないが、
深夜には通路を走ってはいけないというのは、常識でありマナーである。

そんな常識やマナーが通用しない相手は――

「泥棒ー!」

続けざまに男の声が聞こえてくる。
それを聞いたフィルは扉を飛び出し、走っていった泥棒の方へと駆け始める。

フィルには、心配事がいくつかあった。その一つに、現在のゲブランド皇帝による政治がすでに崩御を始めていることがある。
治安の悪化による犯罪の増加や、力のある貴族による違法の揉み消し等、挙げ始めればキリがない。
こんな泥棒騒動も何回目だろうか。
今回の反乱が始まったのをきっかけに、こういった犯罪が増え始めたように、彼は感じている

また、西ゲブランドに追いやられた低級貴族も、この反乱に加担しているという。
フィルも低級貴族家ではあるが、代々皇帝に一兵卒として仕えてきた歴史のお陰か、
遠くに飛ばされるという事態は一応回避されている。
尤も、貴族の中には、それを不服とする者も居たが。
ともかく、反乱が起きた起きなかったに問わず、
今のままの政治では、いつかゲブランドは崩壊してしまう、そうフィルは考えている。


「逃げられたか……」
「お力になれず、申し訳ありません」
「いえいえ!第一部隊の方に手伝って頂いた、というだけで光栄です!」

結局、泥棒には逃げられてしまった。
こんな犯罪の蔓延する国では、力のない平民は泣き寝入りするしか無いだろう。

何もできずに部屋に戻ったフィルは、部屋の明かりを消し、ベッドの上に横になった。

(この国を変える力は、残念ながら僕にはない……)
(だから、自分の剣と部隊のみんなを信じて、前に進むしかないんだ。例え、その結末が帝国の滅亡であっても……)

様々な考えがフィルの頭を過ぎっていくが、そうこうするうちに、
頭が考えることに対して疲れたのか、ゆっくりと眠りにつけそうになった。

ふと、そんな朦朧とした意識の彼は、何か人の声のようなものが聞こえた。



「……さよなら……」


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