「――攻撃拠点の建設が完了しました!」
ついに、第一部隊出撃の日となった。
建築者達のけたたましい声が、アベルの山々に響く。
「この戦域のクリスタルの活性化を確認しました!いつでも開戦可能です!」
攻撃拠点と、防衛拠点。二つの拠点の波動共鳴により、アベル渓谷のクリスタルは白く眩く輝き始めた。
そのクリスタルが煌く様を見て、兵士達は自らの士気が昂っていくのを感じていた。
そんな彼らを率いるべく先頭に立ち、彼らの士気をさらに高めるのは、
第一部隊「ナショナルギャラリーテラーズ(略称NGT)」隊長兼別動隊隊長フィル。
その後ろにアツィルト軍団長及び副隊長であり、そして指揮官のディラン、ブリアー軍団長及び第一部隊副隊長のジャッカード、
コクマー軍団長のゲッダス、ダアト軍団長のタッシュ、そしてエーテル軍団長及び第一部隊副隊長のイヴリスが、
自らの軍団に所属する兵士を背後に、横一列に並んでいる。
フィルは後ろを振り向いた。自分の後ろに綺麗に兵士達が並ぶその様子は、実に壮観だった。
「――各軍団、戦闘開始!」
フィルは、全軍に指示を下した。その隊長の号令が、部隊員達に響く。
第一部隊と反乱軍の戦いの火蓋が、今切って落とされた。
「アツィルトは拠点近くのクリスタルで一本目と拠点裏の建築、
コクマーとダアトは二本目を建てられるようにアベル山奥のクリスタルを制圧、
そしてブリアーとエーテルはアベル山の南部から敵の建築妨害を狙うんだ!」
「了解!」
威勢の良い声が各所から聞こえてくる。
フィル率いる別動隊は、作戦のためにコクマー軍、ダアト軍と共に北に向かうことにした。
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「ディラン様!オベリスク分のクリスタルが用意できました!」
兵士の一人が、両手一杯のクリスタルを持ちディランの元に駆け寄った。
この程度あれば、オベリスクを2〜3本程度建てることが出来るだろう。
「迅速な採掘ですね。素晴らしい」
「ありがとうございます!」
兵士からクリスタルを受け取ったディランは、『一本目』を建てるべく、詠唱を開始した。
「クリスタルよ、私の祈りに応えよ!
その輝きで、大地に聖なる柱を建てよ!
その輝きで、戦場に力の領域をもたらせ!」
詠唱を開始すると、オベリスクを建てるべき位置に、魔法陣が展開される。
「『オベリスク』建築!」
ディランが詠唱が完了した瞬間、大地が震え、魔法陣から巨大な縦長の物体が、ゆっくりとその姿を現していく。
「――こんな所でしょうかね。そのまま採掘を続けなさい」
「了解!」
クリスタルを渡した兵士は、採掘のため再びクリスタルに向かっていった。
そのままディランは、しばらくアベル山の向こうを望んでいた。
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「――結局、南攻めするのは俺たちなわけか」
実力のあるウォーリアのみが身に付けられるパーシヴァル一式装備と大剣を身に付け、先頭を歩くウォーリアが愚痴を漏らす。
ブリアー軍団長のジャッカードであった。
「あら?ジャック、あなた作戦を聞いてなくて?」
それを追うように歩く、露出度の高いヴィヴィアン一式装備を纏うソーサラーが、前を歩く男に軽口を言う。
エーテル軍団長のイヴリスであった。
「分かってる。俺たちは陽動で、フィル様の別動隊が潜入しやすいようにするだけだろう」
「ちゃんと作戦聞いてるじゃない」
「当たり前だ」
「じゃあなんでそんなに不機嫌なのよ?」
ジャッカードは振り向くことなく、彼女に答える。
「そうだな……余計に喋る奴が必然的に近くにいることになってウザいからだ」
それを聞いたイヴリスは笑い声を上げる。
「あっは!ジャックはあまり喋りたがらないでしょ、だから代わりにあたしが喋ってあげてるの。
むしろジャック、あなたが感謝しなさいよ」
ジャッカードはため息をついて、またも振り向くことなく彼女に答える。
「……やれやれ。イヴは人の話をあまり聞きたがらないだろ、だから代わりに俺が聞いてやってるんだよ。
むしろイヴ、お前が感謝しろ」
「確かにねー、私話聞かないからねー、それは感謝しなくちゃねー、ありがとうねー」
そうイヴリスが言った瞬間、前を歩くジャッカードの足が止まる。
「――敵だ」
彼は、丘の向こう側に、独立軍の旗があるのを見つけたようだ。
「感謝は後でも聞いてやる。精々開いた口に矢をぶちこまれないように気を付けろよ!」
「あなたも、精々開いた耳にアイスボルトを打ち込まれないようにね」
ジャッカードは、首からぶら下げていた通信クリスタルを手に持ち、自軍に対する広域通信を行った。
「――こちらブリアーおよびエーテル、反乱軍と交戦開始!」
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