FEZ小説 独立戦争編

『蒼き焔』、ロイズ・レイシュトルムは、舐めるようにフィルの得物を見ている。

「その刺突剣……ランス家の人間……」
「……」

確かに彼の武器は戦場では殆ど見かけない。それが、すぐに彼が何者なのかを把握させた。

「手前――フィリップ・スコット・ランス、だな」
「……それが何か?」
「お互い初対面だが、俺様の名前を知っているようで何より。そういう手前も、こっちじゃそれなりの有名人だぜ」

ロイズはそこに倒れている兵士を見て呟いた。

「ま、そりゃこいつら採掘兵共じゃ話にならねえ相手なわけだ。そりゃあそうだ、第一部隊の隊長だからな」
「……」

男は手の杖を肩に乗せて、呆れたような表情をした。

「――だが、俺様と会ったことをすぐに後悔することになるぜ……」

フィルは、周辺の雑草が小さく揺れ始めたことに気がついた。
ソーサラーが魔法陣を展開する際の特徴的なエネルギーが流れを作り、小さな風を発生させている。
魔力の風の渦は、『蒼き焔』へと向かっていた。

「――『刺突剣を持つ男』を二人率いた部隊に、俺の故郷が燃やされたんでな……。
 悪いが、ここでその恨み果たさせてもらうぜ!」
「何を……!?」

喋っている間に魔法陣を完成させた彼は、動揺しているフィルめがけて大きな火の玉を飛ばす。
それを大きく横に回避したフィルは、男の言ったことに疑問を投げ掛けた。

「村というのは……コラント平原にあったあの村か……?」
「その村のことだ、忘れたとは言わせねえぜ!」

確かにフィルには、西ゲブランド方向にあって、フィルら第一部隊と何かしらの接触があった村は浮かんだ。

「バカなことを言うな!
 あの村はコラント平原がゲブランド領だった時に、ハンナハンナ島への行軍の際の休息に止まっただけだ! 第一、父上の部隊はそんな無益な攻撃をする部隊ではない!」

ロイズの魔法を回避しつつもハッキリとそれを否定するフィル。
実際、フィルには彼が何を言っているのかが理解出来なかった。
コラント平原の村の人々は東ゲブランド派で、独立解放軍を鎮圧しに来た第一部隊は彼らから歓迎されていた。

「だが村が焼き討ちにされ、その時に刺突剣を持った男が村に居たのは事実だ!
 俺様が、この目で見ていたんだからな!村が、故郷が、人々が!すべて燃え尽きていく様子と共にな!」

『蒼き焔』は息切れすることなく細かくファイアを打ち続け、牽制を続けている。そのせいで、フィルは中々近づけないでいた。
ウォーリアは、空間を切り裂いて衝撃波を飛ばす『ソニックブーム』、
斬撃に気力を込めて飛ばす『フォースインパクト』がある。
しかし、フェンサーにはそういう芸当は出来ない。上手く攻撃を回避して近づいて攻撃を仕掛けるのがフェンサーである。

(恐らく、こちらが硬直を出せば間違いなく攻撃を差し込んでくるだろう……
 少なくとも、無傷で近づける相手ではないか……)

フィルは、火の玉が当たった地面を見る。
炎は着くものの、広く燃え広がることなくゆっくりと円形の黒ずみを生成した。
敵生物にゆっくりとダメージを与えることを得意とする、炎系魔法の特徴だ。

(それに、今は敵を倒すことではなく、時間を稼ぐことが最大の目的なんだ。無茶はよしておくべきか……)

フィルら別働隊の目的は、時間を稼ぐことである。
無理してロイズを倒す必要はなく、二本目のオベリスクが建ち終わるまでの時間を稼げれば良い。
また、オスカーやガーランドと合流出来れば、形勢は容易に逆転する。
彼は、刺突剣を構え直し、ロイズの魔法攻撃を見据える。

「炎ソーサラーが使える魔法が炎系だけだと思うんじゃないぜ!『サンダーボルト』!」

空から一筋の雷が、アベル渓谷の大地へと舞い降りる。
威力よりも落雷時の衝撃を利用したクラウドコントロールを目的として、サンダーボルトは使われることが多い。
ロイズに対して平行方向に回避を続けていたフィルだったが、意図しない方向に回避せざるを得なくなった。

「……!」
フィルは、サンダーボルトを回避するために、真正面へ回避行動を行おうとした。
しかし、それこそが男の狙いだった。

「飛んだな?ソーサラーの前で飛ぶということは、着地を狙われても構わないってサインなんだぜ?」
男は先程に比べて明らかに大きい火の玉を、フィルの着地点めがけ放った。
彼の着地と同時に、爆炎が着地点一体を包み込み、彼の被っていたソフトフェルトハットは宙を舞った。

「命中したな、どうだ俺様の炎――!?」 「『ペネトレイトスラスト』!」
『蒼き焔』が命中を確認する間もなく、爆炎の中から一つの人影がソーサラーへと飛びかかっていく。
ペネトレイトスラストは、クヌートが得意としていた技で、
刺突剣を突き出すように構え、数メートルの距離を一瞬で移動する。攻撃と移動を兼ねた技である。
二人の研究によって、フィルも会得していたのだ。

「マジかよっ……あの中を突っ切って来たのか……!」
炎系魔法により大きな火傷を負いながらも、刺突剣を前に構え、爆炎を突破したフィルは一気に炎ソーサラーの元まで迫った。
ロイズは真横に回避しようとしたものの、右腕を少し斬られることになった。

「ちぃっ……」

刺突剣を構え直し、接近状態で戦闘を挑むフィル。

「終わらせよう、『蒼き焔』!」

フィルが刺突剣を突き出そうとしたその刹那、彼の視界に、何か長い物を持った兵士が見えた。
フィルは一瞬、思考に走った。

長い物?いや、あれは最近開発された飛び道具――

「――なぁーんてね」

火薬の破裂音が一発の、あたり一帯に響いた。


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