FEZ小説 独立戦争編

「ぐっ……注意を『蒼き焔』にそらすための策だったか……」

地べたに片膝をついたフィルは、攻撃された方向を向きを変えず見た。
あの『蒼き焔』の背後にある岩の上に、『銃』を持ったスカウトが立っているのが見えた。
左目を潰されたせいか、フィルは距離感が上手く掴めないでいた。

「どうだい?火薬とクリスタルの力を混ぜた新兵器の威力はよ」
「……随分と、有効射程が短いようだね……」

先程の攻撃は、弾丸に使用者の気力を付加させて破壊力を上げる『パワーシュート』であるとフィルは推測した。
本来は矢を放つ際に使われる攻撃術なのだが、銃でも同じような原理で使えるのだろう。

そうして放たれた『パワーシュート』を、なんとか『ストライクダウン』で弾こうとしたものの、
初速度が矢に比べて早く、軌道をわずかに逸らしただけで、左目を撃ち抜かれてしまった。
脳天を撃ちぬかれないだけ良かったと言えるかもしれないが。

「スカウトの護身用武器としては、相当に優秀と思うぜ?俺様はね」
「……」
「おっと、動くなよ。一歩でも動けば銃と魔法の波状攻撃だぜ」

男は常に詠唱状態にあり、いつでも魔法を放つことが出来るだろう。
フィルも、武器を構えたまま、いつでも動き出せるようにしていた。

「――どうしても」
「ん?」
「どうしても、僕と父上が村を焼き討ちにしたと思うのか?」

それを聞いた男の表情は大きく豹変した。

「また同じこと言わせるのか手前は!?俺様がこの目で見たと言って――」
「本当に、それは僕と父上だったか?『直接見たこと』以外に、その人物らと、僕と父上を同一にできる確証はあるのか?」

フィル自身はもちろん『やっていない』と知っている。
そして、彼は、彼の父親がそういうことをする人間ではないと信じている。

「君は、ショックのあまり、都合の良いように思い込んでいるだけじゃないのか!」
「……黙れ!それ以上喋ると消し炭にするぞ!」

『蒼き焔』は魔法を唱える。

「いいや、黙らない!
 僕は、君が間違いであることを正すまで、僕がやってないことを示すまで、死にもしない!絶対に!」

話の終わり際に、フィルは男に向かって走り出す。

「減らず口を!」

ソーサラーは、大きな火の玉をフィル目掛けて放つ。
火の玉は彼の足元付近に着弾し、爆炎は横に広がった。
フィルは高く飛んで魔法を回避すると、そのまま空中で男に対し刺突剣を構え、落下する勢いを利用して突進する。

それを見た『蒼き焔』は、大きく笑い声を上げた。

「ふふふ……ふはははははは!弾丸を弾けなかった癖に、回避ができない空中に自分から行くとは!
 とんだカモだぜ!『パワーシュート』で打ち落と――」

大声を上げる彼だったが、背後から首元に剣を突きつけられ勢いが止まる。

「――残念だが、後ろのお仲間さんは既におネンネしてるぜ」

剣を持つは、フィルと同じ軍団のオスカー。

「なにっ……」

『蒼き焔』が恐る恐る振り向く。先程まで銃を扱っていたスカウトは地に倒れ、違うスカウト――ガーランド・スリーサウンズがそこに立っていた。

「そのための、あの会話なわけか……」
「まぁ大体はそういうところかな」

ソーサラーの手前に着地したフィルは、オスカーに抑えさせたまま彼に話しかける。

「でも、君が言っていることは間違っていることは確かだ。後で無実を証明しよう。
 そして、君は敵側の重大な戦力の一つでもある。大人しく降伏してくれると僕としても助かるのだが」
「……」

男は杖を地面に置いた。が、そのまま彼は喋り始めた。

「……二つほど、面白いことを教えてやるとするか」
「?」

フィルは突然の会話に首を傾げたが、ソーサラーは構わず話し続ける。

「現在最前線で研究されている炎系魔法は、魔法の球形のサイズを小さくし、高出力の魔力を込め、その瞬間的な爆発力で広範囲を焼き払うタイプなんだぜ」
「それがどうした?」

剣を突きつけたまま、オスカーは不敵に笑った。

「そしてもう一つ……ソーサラーは杖が手元から無くなっても、詠唱状態は解除されないってことをな!」

そう言うと男は、左手を正面に掲げる。
そこには非常に激しく鼓動する火の玉があった。
彼の言う新しい炎系魔法が今、放たれようとしていることをフィルはすぐに察した。

「まずい、離れろオスカー!」
「!!」

二人がソーサラーの元から飛び退く。
その火の玉は次第に輝きを増し、突如巨大な爆炎を起こした。

「自爆しやがったのか……」
「……いや、彼は『蒼き焔』と呼ばれる程のソーサラー。
 彼が本気なら、ここら一体をクレーターに出来るほどの魔法を放てるはず……」

その時、先程まで聞いていた声が、煙の向こうから聞こえてきた。

「その通り!」

煙が上がった遥か先に、この魔法を放った男は立っていた。

「『蒼き焔』!!」

「ふははははは!俺様は、手前を殺すまでは捕虜になんかなりゃしないぜ、絶対にな!」

彼はそう言うと、そのまま走り去っていった。それを見たオスカーは悔しそうな顔をした。

「くそっ、まんまと逃げられたか……」
「いや、逃がしたのは僕の責任だ。君がそう気負うことはない」

フィルはオスカーの背中をぽんと叩いた。

「それより、あの爆発を見た兵士がすぐに集まってくるはず。
 オスカー、ガーランド、これ以上時間を稼ぐ必要はない。撤退だ」
「了解了解」



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