FEZ小説 独立戦争編

アベル渓谷の敵地深部を攻撃した第一部隊別動隊は、独立解放軍の『二本目』オベリスクの建築阻害に成功し、退却を開始していた。
『蒼き焔』の襲撃を受け、これを辛くも退けることが出来たが、フィルは決して小さくない怪我を負ってしまった。

「う……」

撤退を急いでいたフィルは、急に視界が狭まり、不意に足元がふらついた。
鞘入り刺突剣を杖がわりに、なんとか体勢を保つことはできたが、その様子は誰が見ても危なげなものだった。

「フィル隊長、大丈夫すか?」

オスカーは彼の肩を持とうとしたが、フィルはすぐに立ち上がった。

「あ……ああ、大丈夫だ……。
 ただ、問題ないと言えば嘘になるかな……」

フィルの左目は、止血処理は行っているが、それだけしか行えていない。
傷口が化膿する恐れもあり、一刻も早くクリスタルでの治療が求められる。

「こりゃ急がねえとヤバイな」
「分かってるさガーランド!だから走ってるんじゃねえか!」

三人は退却を急いだ。

アベル渓谷北部での領域合戦に勝っている場合、ブルワークと呼ばれる巨大な壁を建てて維持出来れば、敵側の進軍を妨害でき、北側での領域勝ちはほぼ確定する。
しかしブルワークは味方の退路も妨害することになり、建てるタイミングを間違えれば味方を殺すことになる。
領域勝ちできている今、別動隊に求められているのは、速やかに撤退することだった。

「隊長、この先の谷を抜ければ北部クリスタルは間近だ!頑張れ!」

オスカーの先導に従い、フィル達は谷底に進入した。
谷底というよりは切り立った崖に挟まれた道に近く、山を乗り越えて進軍するのは困難を極める。
ここは行き際にも通ったが、ブルワークを建てて進軍を妨害するならこの道が最適だろう。
フィルは、先ほどの通信で聞いた支援隊がこの先で待機しているのが理想だと考えていた。

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「……おいおい」

谷底の出口で三人は、予想だにしないものに迎えられた。
そこで彼らを待っていたのは、支援隊の人間ではなく、立てられた壁そのものだった。
これでは退路が塞がれ、見殺しにされているようなものだ。

「なんで味方のブルワークがもう建てられてんだよ!?」

ガーランドは谷底の道に聳え立つ壁を蹴りつけた。

「一体どういうことなんだ……?」

懐から連絡クリスタルを取り出したフィルは、北部に展開したコクマー軍団長のゲッダスと通信を試みた。

「ゲッダス!まだ部隊は帰還してないぞ!どうして壁が立ってるんだ!」
<<え……別動隊は既に帰還したと、支援隊から連絡がありまして、ブルワーク建築の許可を……>>
「……虚偽報告か……!支援隊のメンバーは?」
<<連絡をとってみます!>>

どうやら味方に敵の工作員が居たようだ。
そちらはゲッダスらに任せ、今はここから生き延びる手段を考える他無い。
ここで立ち止まっていては、いずれ押し寄せる敵軍に押し潰されるだろう。

「誰か居ないか!」

オスカーは、壁の向こうに対して声を張り上げる。
しかし、反応は無かった。既にこの付近から味方は居なくなっているようだ。
そこに、一本の連絡が入る。

<<……こちらダアト軍団所属のウォードであります!
 連絡があった時最も近かったので、今ブルワークに向かってます!>>
「……助かるよ!何分ぐらいで到着できる?」
<<少々位置が遠いので、10分程かと……!>>
「出来るだけ急いでくれ、恐らく敵軍も躍起になって追って来てるはずだ」
<<了解っ!>>

通信は入ったものの、最寄りの兵士ですら到着に10分は掛かるようだ。
その間に追いつかれてしまう可能性は非常に高い。

「三人肩車して届く高さじゃねえし、スカフォードを足場にして飛ぶしかねえか?」
「ダメだ、ガーランド。それだと敵の進軍を食い止めるこの壁を『殺す』ことになってしまう……
 この壁を殺すことは、この戦いで優位性を失うのと同じだ」

フィルはガーランドを諭す。

「最悪の場合は……」

壁に手を当てて空を見上げながら、オスカーは言った。

「戦場で負けるか、三人の犠牲を天秤に掛けてるもんだぜ……」

そうして、三人に運命の時間が訪れる。
奥に反乱軍が見える。距離は遠いが、逃げ場は無い。

「あそこに居たぞ!」
「全員突撃!」

敵の軍団長らしき人物が号令をかけ、敵兵士が一斉に谷底の道へと入り込んでくる。

それを見たフィルは、刺突剣を鞘から抜きつつ言った。

「僕は、『生きて帰る』と人と約束したからね。死ににいくつもりはない」
「お、隊長には何か名案がおありで?」

オスカーもまた、剣と盾を構えつつ言った。

「『敵陣』っていう、限りなく険しく危険な道が開かれてるから、そこを通ることにしたよ」
「そりゃかなりデカイお祭りになりそうだ、最後まで楽しまねえとな」

フィルは懐から『パワーポット』を取り出し、一気に飲み干した。
ガーランドももちろん、短剣を懐から抜き取り、戦闘体勢は完璧である。

「さて、行こうか」


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