FEZ小説 独立戦争編

「地点G6制圧しました!」
「よし、このまま進軍を続ける!」

アベル山の南部で戦っていたジャッカードら。
『二本目』のオベリスク建築成功の報せを受け、さらに南へと戦線を拡大させていた。
二本目の立つアベル山のふもとより、アベル地域南側の方がオベリスクによる支配領域が重複せずに済むためである。
南側の戦況は第一部隊側優勢で進み、一進一退を繰り返しつつも、少しずつ戦線は上がっていっている。
戦況は間違いなく優勢だった。しかし、南攻めを敢行しているブリアー軍団長のジャックは、この戦況にただならぬ違和感を感じていた。

彼は、同じく南攻めを敢行するエーテル軍団長のイヴに話しかける。

「なあイヴ」

彼女は杖をついてパワーポットをちびちび飲んでいた。
ジャッカードに声を掛けられたのに気づき、それを一気に飲み干すと、至福の時間を邪魔するなと言わんばかりの険悪な表情で彼に応えた。

「……なぁにジャック」
「今のところ、かなりの歩兵勝ちといった戦況なのは見ての通りだ」
「そうね。それがどうかしたの?アッサリしすぎ!手応えない!って言いたいの?」
「そうだ」

ジャックは戦略家や軍師ではない。局所での戦術を考える程度だ。
しかし、その局所での戦いを通して、時折戦場全体の戦略が見えてくることもある。
そんな時、彼はいつも決まってイヴに相談をしている。

「そうかしら?所詮西ゲブランドなんて、数で押すことしか考えてないでしょ。
 ま、それが一番正しい戦争の仕方だとは思うけどね」
「しかし……こうも手応えがないとだな……」
「もしかしたら『ねずみ』かもしれないわね」
「『ねずみ』?『ねずみ』とは何だ?」

ジャックは聞きなれない言葉に首をかしげた。

「スカウトによる潜入破壊工作のことよ。奥地にあるオベリスクを単身で破壊しにくるってやつ。
 近年じゃ危険性や成功率の低さから、あまり見かけない戦法だけど」
「なるほど」
「前線を上げすぎると、必ずどこかに穴が出来るから、もしかしたら向こうはそれを狙ってるのかもね」

ジャックは閃いたような顔をして、彼女の方を見た。

「じゃあイヴ、見回り頼めるか?」
「……言うと思った。しょうがないわね、ホント。
私の軍団の三分の二はそっちに指揮を譲るから、戦線維持頑張ってね」
「おう」
「あ、これディランに報告する?」
「いや、しなくていいだろう。あの人は頭がいいからな、分かってるはずだ」
「りょーかいりょーかい」

そう言ってイヴは自分の軍団のメンバーを数人集め、とろとろと移動を始めた。

「さて、忙しくなるな……だが、今まで手応えが無かった分、少し楽しみになってきた!」

地面に座っていたジャックも、前線へ向かうべく移動を開始した。


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「見回りするとは言ったものの、やっぱり面倒臭いのは面倒臭いわね――」

そう言いながらイヴはのんびり歩いていた。

普段と変わりない戦場……そう思った時、彼女は崖の上に何か異常な生物の存在を感じ取った。

(な……なに……この感覚……)

それだけで、鳥肌が立つほどに神経が張り詰めていた。思わず上を見たが、この位置からでは見えない。

「イヴリス様、どうかしましたか?」

イヴの後を歩いていた兵士が、彼女のただならぬ様子に声を掛けた。

「ちょっとあなた……あれ何かわかる……?」

イヴは気配を気づかれる可能性を感じ、声を潜めて彼に尋ねた。

「いえ……自分には何が起きているのかさっぱり……」

軍団の皆は、あの本能的な恐怖の感覚を感じていないようだった。

(あの道は、こっちの本拠点の崖上に出る道だったかしら……)

何者かは分からないが、自軍を脅かす存在かもしれない。
イヴリスらは、本拠点の方へと急ぎ足で向かった。


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