FEZ小説 独立戦争編

「はぁっ……はぁっ……さすがに、久々に走るとキツいわねぇ……」

本拠点まで走って戻ってきたイヴは、息も切れ切れになっていた。

「おや、イヴリス様ですか」

そんな彼女に、一人の初老の男が話しかける。ディランだった。
彼は地図を広げ、この本拠点付近で司令を行っていた。

「体力の衰えは、年齢から来るものですよ」
「貴方に言われたら割と不味い気がするわね……」
「私は毎朝ジョギングを行っておりますので、まだまだ若い者には負けませんよ。はっはっは」


ディランとイスは談笑していたが、彼女は目的を思い出し笑うのをやめた。

「って世間話しにきた訳じゃないのよ!
 アベル山南の崖伝いに何かが居たんだけど、崖下からじゃ見えなかったのよ。何か報告とか入ってないかしら……」
「いや、今のところ報告は何もありませんが……」
「そうかしら……あの全身の神経が凍えるような感覚は一体……」
「では私の部隊が偵察に行きましょう」

ディランはそう言うと、彼の杖を手に取った。

「無理しなくてもいいのよ?」
「いえいえ、見たところイヴリス様もお疲れのようですし、
 私も拠点で地図とニラメッコばかりでは、足腰も弱るというものです」
「そう……じゃ、任せたわ」
「では……」

深く一礼したディランは、自らの杖を持ち、拠点の外へと向かっていった。
それを見届けたイヴは、近くにあったソファに寝転んだ。

「ふー……たまにはこうやって横になるのも悪くはないわね」
「いつも横になってるでしょうに」

近くにいる彼女の部下が小さくつぶやいた。

「何か言った?」
「いえ何でも」


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「イヴリス様!」

誰かがイヴを呼んでいた。

「イヴリス様!起きてください!」

「なによラウエル……もう少しで巨大ステーキを食べられそうだったのに」
「今は戦争中ですよ!!」

イヴは眠そうな顔で部下を見ていた。

「ってまた寝ないでくださいね!ディラン様から連絡が入ってますよ!」

部下から通信クリスタルを手渡されたイヴは、交信を開始した。

「あー、あ゛ーーー、イヴリスですよ。
 何か見つかりました?ツチノコでも居ました?」
<<イヴリス様!その例の生物を見つけたのですが……>>

イヴの表情が変わる。

「ど……どんな感じだったの!?」
<<あれは召喚獣のようです……
しかも、我々ソーサラー以上に強力な魔法が使えるらしく、不覚にも足を凍らされました……>>
「魔法が使える召喚獣……?」
<<気を付けて下さい、奴は、我々の本拠点に向かっています……!>>
「本拠点に……!?」

その時、イヴらの足元が大きく揺れた。

「遠くに何か見えます!」

部下の声を聞き、彼女は外を見た。
そこには、巨大で、四足歩行で、頭が三つある、身の毛もよだつ恐ろしい外見をした生物だった。
純粋にクリスタルの力のみを使う『召喚獣』とは少し違い、それに人為的な魔法を加えたような雰囲気を持っている。

「この根元的な恐怖は、あれ自身の魔力によるものなのね……」

恐怖とともに、不穏な雰囲気を感じ取った彼女は、すぐに本拠点全体に指示を出した。

「相手は召喚獣らしいわ!こっちも迎撃のナイト召喚して!」
「イヴリス様!」

部下の一人が血相を変えて走りよってくる。

「どうしたの?ラウエル」
「ほ……本拠点に貯蓄していたクリスタルは、先程の北部の召喚支援に……」

イヴは驚愕した。

「な、何もないの!?拠点のクリスタルは!?」
「す……すでに枯渇しておりました……」
「だから拠点近くのクリスタルは掘りすぎないでって言ってるのに……!」

イヴは、右手に握ったままの連絡クリスタルを再び輝かせ、軍全体への広域通信を開始した。

「イヴリスよ!本拠点近くで敵の召喚獣らしきものを発見したわ!
クリスタル不足でナイトが出れないから、僻地からクリスタル輸送よろしく!」

そして彼女はその連絡クリスタルを急いで懐にしまうと、ソファに立て掛けていた杖を手に取った。

「イ……イヴリス様、どちらへ……」
「決まってるでしょ、ナイトが来るまでに時間を稼ぎに行くのよ。ほら、アンタも付いてくる!」
「は……はい!」



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