FEZ小説 独立戦争編

「敵の新種の召喚獣だって!?」

イヴの広域通信を受信したフィルは、通信クリスタル片手に、広げていた地図を見た。

「これは、してやられたってやつか……北部のナイト隊を半数ほどに分けて、本拠点の防衛に向かってくれ!」
<<俺と部下が今向かってる!>>

ジャックから通信が入る。

「ジャック!君は南部戦線のリーダーだから――」
<<知るか!そもそも、南から向かった方が圧倒的に早いんだよ!南の前線指揮は他の奴に頼んでる!俺に任せろ!>>

気迫に押され、言葉を失うフィルであったが、彼の気持ちを汲むことにした。

「……任せよう。他の兵士たちは各々の戦線維持に努めてくれ、以上」

そう言って、フィルは通信を切断した。

「……しかし、召喚獣は、歩兵を支援することに用いられることが大半のはず」

召喚獣は、敵の建築物を砲撃で破壊できるジャイアント、
巨大な断頭剣を持ち、『アイスバインド』『ダークミスト』を使いこなすレイス、
そして対召喚獣のナイト、この三種が召喚獣である。

「ディランからの報告によると、魔法を使える戦闘用の召喚獣らしい。
それなら、レイスのように前線を押し上げるために投入されるべきだ。
でも、その召喚獣は、北部戦線はおろか、南部戦線にすら投入されず、単独で中央を抜けてきた」

歩兵を支援することを能わず、召喚獣単体が、本拠点近くで戦闘を行う理由――


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「走れ!立ち止まるな!」
「了解!」

ジャックらは、ナイトが召喚できる程度のクリスタルを背負い、本拠点へと急いでいた。

あと1kmもない。この先の丘を越えれば、本拠点だ。

(イヴ、耐えてくれよ……!)

何より、イヴの身が危ない。そのことが、彼をさらに焦燥させた。

「た……隊長……持ちません……!」

ジャックの背後を走る部下が、限界に達する。

「……こっちに寄越せ!」

その様子を見たジャックは、部下が背負っていたクリスタルの籠を片手で持ち上げ、再び走り始めた。

(もうすぐだ……もうすぐ……)

彼らは無心に走り続ける。丘の上を目指して、その向こうにあるキープを目指して。

突如、ジャックのクリスタルに通信が入った。

<<フィリップだ!ジャック応答してくれ!>>
「……っなんだ……!?」

走りながら、息を切らしながらも、彼は応答を返す。

<<新種の召喚獣……どうしてその魔法力を、前線支援に活かさなかったのか……それを考えていたんだ!>>
「つまり……!?」

ジャックは思わずその場で立ち止まった。
彼の後ろを走っていた部下たちも、その様子を見て彼の元に集まった。

<<――奴は、拠点を直接破壊する召喚獣としか考えられない!>>
「拠点攻撃の召喚獣か……厄介なことだな……!」
<<本拠点が破壊されたら、オベリスク達は一斉にその力を失って、戦闘の継続が不可能になる!止めるんだ!>>
「了解!」

通信が切られると、ジャックは再び走り始めた。

「拠点はもうすぐだ!走れ!」

丘を越え、その線の向こうに本拠点が見えてきた。

「よし、見え――」

その時、強烈な閃光が拠点を包み込んだのを、ジャック達は感じた。
次の瞬間、大きな爆発が拠点の外で発生した。
爆炎の大きさは、火ソーサラーの放つそれを圧倒的に凌駕しており、遠方からでもはっきりとわかるほどに巨大だった。

「……爆発……!?」

爆発により発生した猛烈な突風が彼らを襲う。

「く……そっ……間に合わなかったか……!?」

突風が収まったのを確認したジャックは、本拠点へと急いだ。



あの爆発の中で、本拠点は辛うじて形を保ってはいるが、誰がどう見ても崩壊寸前だった。
ジャックは、近くで一人の男が倒れていることに気がついた。

「かはっ……ジャッカード様でしたか……」
「ディラン!何があった!」

そこに倒れていたのはディランだった。

「あの……召喚獣の自爆……です……私の力及ばず……申し訳……ありません……っ」
「しっかりしろ!」
「私は……奴から距離が離れていたためか……大丈夫ですが……それよりも……イヴリス様を……」

部下に彼の介抱を任せ、ジャックは本拠点側へと向かった。
周りを見渡すと、何人かの生存者は確認できたものの、イヴの姿は見当たらない。
爆心部に面していた壁は跡形もなく消失していた。
その壁の近くに、黒い帽子が落ちていた。大きく焼け焦げていたが、これは間違いなくイヴのものだった。

「この付近に……!」

ジャックは近くを見回した。
彼女は、その帽子のあった奥の瓦礫の陰に、倒れていた。

「イヴ!」

ジャックは彼女の元に駆け寄った。

「おい!しっかりしろ!」

肩を揺するも、彼女の目は開かない。

「おい、一人で勝手に死ぬなよ!イヴ!」
「うるさい……一人で勝手に殺すな……」

イヴは彼に辛辣な言葉を投げつける。

「うるさいって何だよ……人が心配して南戦線から戻ってきたのに……」
「は……寝てた……のよ……」

彼女は明らかにそんな元気な様子ではない。
イヴは、心配した顔のジャックに手を伸ばそうとする。

「……でも……あなたの顔が見れてよかった……」
「イヴ……」
「……起こしてくれて、ありがと……もう少し……眠るから……」
「おい!寝るな……寝るなよ!」

イヴは、再び、ゆっくりと目を閉じた。伸ばしていた彼女の手は、力なく地面に落ちていった。


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「……ダメだったか……」

ベッドの上で地図を広げていたフィルは、本拠点からの連絡を聞いた。
外のオベリスクの波が震えるのが分かる。

「まだ本拠点は崩壊していない。しかし――」

既に戦闘継続が厳しいほど破壊されており、軍全体の士気も一気に下がってしまった。
そもそも、軍団長の2人が戦闘不能になってしまっている。

フィルは、少し考えた後、ベッドから降りて、救護所の外に出た。
そして、クリスタルを取り出すと、軍全体への広域通信を行った。

「――先程の奇襲で本拠点が破壊され、戦闘を続けることが困難になってしまった。
全軍、正面の敵と応戦しつつ戦線を下げ、この戦域から離脱してくれ」

彼は、全軍に退却の命令を出した。

「僕たちは、負けたんだ」


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