FEZ小説 独立戦争編

(あれは、前髪を整えているんじゃない……!)

フィルには、レリシアが言わんとしていることが理解できた。
レリシアが短剣を構えこちらに走ってくる。
フィルは力を振り絞った。そして倒れるように紙一重で回避しながら、背後の部屋の隅にある刺突剣へと一気に近づいた。

「フィリップ、この期に及んでまだ――」

後ろにいた女スカウトが、彼の決死の回避行動の隙を刺そうと短剣を構えた。

その時、フィルを狙ったはずの短剣が彼女の胴を貫く。

「ぐっ……クレア、お前っ……」
「ひひっ、あれ?なんでそんな顔してるの?」

レリシアは得物を引き抜くと、抵抗しようとする彼女の首元を切り捨てる。

「そうか、クレア……それがお前の決めた未来か」

一部始終を見ていた男は、レリシアに向けて走り出した。
彼女はそちらを振り向き、短剣を振るったが、男はそれに合わせてアームブレイクを放ち、彼女の武器を先端で弾き飛ばした。

「後手の……!?」
「甘い未来だ」

そう言って男は武器の無くなった彼女を蹴り飛ばした。体格の小さいレリシアは大きく転倒し、床に叩きつけられた。

「うあっ……」
「しかしお前の出した結論だというなら仕方ない、裏切ったお前を粛清するとしよう」

フォルテと呼ばれていた男スカウトは仰向けに倒れるレリシア目掛け、短剣を突き立てようと、得物を逆手に持ちかえた。

(ここだ!)

その瞬間を見計らって、半身を起こしたフィルは家具の陰から自らの刺突剣を投げた。
投げられたそれは綺麗な直線を描き、男の左胸を貫く。

「がっ……ラン……ス……」

彼はそれ以上しゃべることはなく、地面に倒れていった。

「はぁ……なんて相手だ……」

フィルはそのまま床に横になり、天井を仰いだ。
毒素は消えかけているが、立ち上がる気力はない。

「ありがとね」

声が聞こえた。きっとレリシアの声だろう。

「こちらこそありがとう……お陰で助かったよ」
「実は、ここにあいつらを誘き寄せて、二人で叩くつもりだったんだけど、それを言う前に出てきちゃった」

レリシアは起き上がり、フィルの顔を覗き込んだ。

「余計な怪我させてごめんね」
「それは構わない。……でも改めて聞かせてくれ」
「何?」
「君は、一体どういう目的で行動しているんだ?それが僕には分からない」

フィルは横になったまま彼女に語りかける。

「どういう目的って……お兄さんの言ってた『違う生き方』ってやつよ」
「違うったって――」
「剣は捨ててないけどね」

そのまま、レリシアは続けた。

「今のゲブランド帝国は大嫌いだしへーコラ頭下げる気もないけど、
今までやってきたことを活かして、違うことができないかなぁ、って」

フィルは黙って聞いている。

「ま、つまりは、お兄さんの見えない『左目』の代わりをするってことよ」

「はは、なるほどね。
 ということは僕は、君の『右目』となるわけだ」

フィルは呆れたように笑った。しかし、その表情にはどこか安堵のようなものが見えた。

「フィル様!」

部屋にオスカーとガーランドが入ってきた。恐らくさっきの戦闘の音を聞き付けたのだろう。
彼らはフィルに駆け寄った。

「フィル様怪我してねえか!?」
「いや、そんなに深くないから大丈夫だ」
「そいつはぁよかったぜ」

そんな、安心するガーランドの隣に居たオスカーは、フィルの傍に居た少女と目が合った。

「フィル様フィル様」
「なんだい?」
「このガキは誰です?」
「ガキぃ?」

レリシアは明らかに怒った顔をしたが、フィルはそれをなだめた。

「彼女はレリシア。僕の命の恩人で、僕の仲間だ」


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