FEZ小説 独立戦争編

「と、いう訳でね」

人っ気の少ないブリーフィングルームに、フィルの声が響く。
彼率いる軍団専用の部屋だが、部隊全体の会議で使うものと同じ規模の部屋が用意されているため、軍団の人員数に対して少々大きすぎる間取りになっていた。

その大きな部屋の中央にある、これもやはり大きな机を囲むのはいつもの三人。
今日は、それに加え、新入りの一人が同じく机を囲んでいた。

「昨日付けで、新しく入団したレリシアでーす!
 仕事は主に隊長の密偵やる予定でーす!しくよろー!」

(……なんだそれは)

レリシアは満面の笑顔とピースサインを出して自己紹介を行った。

「おう、同じスカウトだな!よろしく頼むぜ!」

ガーランドは好意的なようだった。しかし。

「……」

オスカーは不服な表情で肘をついていた。

「どうした、オスカー」
「いや、どうしたも何も。ただのガキじゃないですか」
「ガキって言うな!!」

レリシアは飛びかかりそうな勢いで怒り始めた。

「落ち着けよ!」

なんとかフィルが押さえているが、彼が手を離せばすっ飛んでいきそうな雰囲気だ。

「レリシアだっけ?お前、大体今歳いくつだ?」
「ん?15だよ、文句ある?」
「15か!15とか!まだまだケツの青いガキじゃねーか!」

オスカーは年齢を聞いて、机を叩き爆笑していた。

「せめて、隊長ぐらい大人になってだな――」
「僕は16なんだけど……」
「えっ」
「え?」

ブリーフィングルームが一瞬だけ静寂に包まれたが、気のせいだろう。

「……ともかくだな!
 俺はこんな奴に命を預けろと言われても無理だね!」

オスカーはそう言って腕を組み、不満足な表情をしている。
それを見てガーランドは一つため息をついて、レリシアに話しかけた。

「やれやれだぜ。レリシア……だったか?ちょっとその手袋外せ」
「え?何でよ。嫌だよ」
「いいから外せ」

ガーランドに言われて彼女は渋々手袋を外した。

「見せたくないんだけどなぁ……」

彼女の手は、肌と違ってあまり赤みのある色をしておらず、指の所々が白くなっている。
そして、間接が曲がっているのか、手のひらは非常にクセのある形をしていた。
心なしか、手のひらが少し大きいような気がする。

「オスカー、見ろ。お前にはこれが15の手のひらに見えるか?
こいつは、相当短剣を使い込まないと出来ねえ手だ。俺には分かる」

「……」

オスカーもレリシアも黙っている。

「いつから短剣握ってたのかは俺の知ったこっちゃあないが、経験は相当にあると思うぜ」

(そうなのか……)

フィルは自分の手のひらを見て、父親にフェンサーを教えてもらったこと、そしてある女の子にフェンサーを教えたことを思い出した。

「……ガーランドが言うなら、まぁ仕方ないか……
 俺がオスカーだ。変な立ち回りしたらぶん殴るからな」

「ひひっ、片手のおじさんも、変な立ち回りしたら刺すからね」

二人は握手を交わした。あまり雰囲気は良くないようだが。

(おじさん……)
(おじさん……)


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「あれ、オスカー。まだ起きてたのか」

廊下を歩いていたフィルは、トイレから出てきた彼に声を掛けた。

「隊長も。早く寝ないと体調良くなりませんよ。ナンチャッテ」
「……」
「まぁ冗談なんですがね。
 それはともかく、あのレリシアって子……若すぎやしませんかね」
「それは僕も思っている」
「隊長も歳だけで言えば相当に若い。
 ……実際のところ、それで戦場に立つってのはどんな気持ちになるんですかね」

オスカーが意外なことを尋ねてきた。
彼はフィルら程にそこまで若くから兵士をやっているわけではないことはフィルは知っていたが、
こうして直接面と向かってそのことを話されることは無かった。

「……どうなんだろうね。僕にもよく分かってない。
 でも、結局は戦場に立つと同じ兵士なのは間違いないと思ってる」
「……」
「まぁ、僕も不安なことはオスカーやディラン達『人生の経験者』に学ぶつもりだから、それを忘れないでね」
「ありがとうございます」
「おやすみ、オスカー」

オスカーは頭を下げると、自分の部屋に向かっていった。


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