FEZ小説 独立戦争編

レリシアにエントム・ロジー・イグノレンスの情報の調査を依頼してから数日。
フィルは、書類や参考資料の真っ只中で寝ていたことに気がついた。

(これはダメだ……少し体調管理を間違えたか?)

目をしょぼしょぼさせながら、部屋の洗面所へ向かうフィル。
洗面台から流れる冷たい水を顔にぶちまけることで、眠気や気だるい気持ちが吹き飛ばされスカッとする。

「ふー……」

調査結果や参考資料の内容を完璧に自分の物に出来るわけではないが、フィルは自らの知識として叩き込んだつもりだ。
これを戦いに利用できれば、戦争も、少しは早く終結へ向かうかもしれない――。

フィルは、勉強は嫌いではなかった。未知への好奇心を満たすことが好きであった。
今はフェンサーの道を歩んではいるが、父が居なければ間違いなく学者の道を歩んでいただろう……と、フィルは日頃から思っている。

(平和な日々を願い、僕達は戦っている――)

フィルが机に立てかけていた刺突剣を手に取った時、扉を激しくノックする音がした。
彼は、これから起きるであろう良からぬ事態を本能的に予測した。

「隊長!隊長ーーーっ!!」

その尋常でない様子にフィルが急いで扉を開けると、汗だくだくの男が膝に手をついて、そこに居た。

「はぁ、はぁ……ウォードです……通信兵のウォード・レンダリングです……!」

その男は、ウォード・レンダリング。スカウト。
アベル渓谷北部での危機に駆けつけようとしてくれた兵士だ。

「どうしたんだ!何があった!?」
「ゴブリンフォーク防衛の……ゲッダス様から……救援の通信が……!!」

それを聞いて、フィルは戦慄した。
第一部隊参謀の悪い予想は、不幸にも的中してしまった。


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アンバーステップ前線拠点のクリスタル通信室に駆け込んだフィル達。
彼は、通信兵の一人が持っていた長距離通信クリスタルを手に取った。

「こちらフィリップ!ゲッダス、応答してくれ!」
<<フィル様!こちらアンバーステップ防衛軍団長、ゲッダスです!>>

通信状態は良好だ。フィルは、改めて説明を促す。

「何があったんだ?」
<<少数の精鋭兵による奇襲を受けています!恐らく反乱軍かと……!>>

それを聞いて、フィルは改めて苛立ちを覚える。
戦略上重要な位置に防衛を割かない帝国軍がふざけている。腐っているのだ、と。

<<敵軍の数自体は多くありませんが、かなりのやり手のようで、苦戦を強いられています!
 至急、救援を……!>>

だが、フィルは二つ返事で救援を出す訳にはいかなかった。
ここは決戦になるであろう地域。反乱軍、正規軍共に睨み合っている状況である。
そこで第一部隊をゴブリンフォークに向かわせれば、アンバーステップの戦力は間違いなく不利になる。
いつ大決戦が起きてもおかしくないこの状況、第一部隊を動かす訳にはいかなかった。

少しの間フィルは考え、結論を出した。

「ゲッダス!こちらも少数の兵士だが増援を送る!なんとか持ちこたえてくれ!」
<<了解!>>

それを見ていたウォードが、不安の声を上げる。

「フィ……フィル隊長……大丈夫なんですか?」
「さあ、どうだろうね……!」

フィルの顔には緊張の汗が見える。

「オスカー、ガーランド、レリシア……それにジャックに通信を繋いでくれ!」
「了解しました」

通信兵の一人が、クリスタルの波長を操作して、各々のクリスタルに通信を試みた。
接続が始まったことを確認したフィルは、再びクリスタルを手に取った。

「オスカー、聞こえたら返事をくれ!こちらフィル!」
<<あいあい、こちらオスカー。聞こえてますよー。……え?ガーランド何て言った?相手?隊長だよ隊長!!>>
<<はい、レリシアよ。聞こえてるよ>>
<<こちらジャック。よく聞こえています>>

四人のクリスタルに接続することができた。
また、どうやらオスカーはガーランドと二人で同じ場所に居るようだ。

「オスカー、ガーランド、レリシアは戦闘の準備を済ませて前線拠点の広間に集まってくれ!」
<<ヤバイことが起こったみたいですね、了解!>>
<<ごめん、今はちょっと無理!>>

オスカーとの接続が切れたが、レリシアはどうやら動けないようだ。

「どうした?何があったレリシア!」
<<もう少しで情報を纏め終わるから……それまで待って!>>

彼女は前に依頼したことの調査を行っているようだった。
今この前線拠点からは遠いことを考えたフィルは、レリシアに直接指示を出す。

「レリシア、まとめ終わったらゴブリンフォークへ向かってくれ!僕達もそこへ向かう予定だ!」
<<了解っ!ちょっと遅れるかもしれませんっ!>>

レリシアのクリスタルとの接続が切れた。

<<……何が起こったんです?>>

緊急の事態であることを把握したジャックは、いつになく慎重な様子の声が聞こえる。

「先ほど、ゴブリンフォークで反乱軍の襲撃を受けているとの連絡が入った。
 僕は少数でゴブリンフォークの救援に向かおうと思っている」
<<その間の第一部隊は?>>
「ジャック、僕が戻る間だけ第一部隊の隊長として皆を率いてくれ!」
<<……なるほど。そういうことなら了解しました>>

ジャックも通信を切った。
エントムに一任するのも問題がありそうだったが、ジャックに隊長の権限を一時的に渡しておくことで少しは安心が出来る。
通信が終わったフィルは、ウォードに使っていたクリスタルを返した。

「ウォード、任せたよ」
「フィル隊長……」

彼は、被っていたソフトフェルトハットを深く被り直すと、前線拠点の広間に向かった。


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「フィル隊長!何があったんです!?」

広間では、オスカーとガーランドが戦闘準備を整えて待機していた。

「ああ、ゴブリンフォークから救援要請だ。僕達だけで援軍に向かう」
「何だって!?」
「その間ここはどうするんだよ!?」

ガーランドが怒鳴るように声を上げた。

「第一部隊の隊長権限は、一時的にジャックに譲渡した。
 僕たちは、反乱軍に悟られないように極秘でゴブリンフォークへ向かう」
「レリシアの奴は……」

オスカーが周りを見渡すが、レリシアの姿は見当たらない。

「密偵をさせててここには居ない。ゴブリンフォークで合流する予定だ。
 ……急ごう!あまり長話をしている余裕はない!」
「了解!」

目的地は、戦略的にアンバーステップに並び重要なゴブリンフォーク。
三人は、人目につかないように、そして迅速に移動を始めた。


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