FEZ小説 独立戦争編

ゴブリンフォークはアンバーステップ平原に次ぐ、反乱軍が東部ゲブランドに侵攻するための二つ目の地域である。
ゲブランド帝国本土よりは遠いが、ゴブリンフォークからジャコル丘陵を経由してクダン丘陵へと侵攻すれば、
ゲブランド首都のあるストリクタ大陸までは目と鼻の先である。
そして当然、西ゲブランド寄りにあるアンバーステップ平原は孤立無援の領域となる。

ディランはこのことをフィルに話し、彼は帝国軍議会にこれを提言したが、軽くあしらわれてしまった。
その結果が、このゴブリンフォーク襲撃であった。
フィルはこれに憤りを感じていたが、あくまで冷静になって行軍に集中していた。

フィル達は人目に付かないように、かつ迅速に移動したが、ゴブリンフォークに到着したのは次の日の夜だった。

ゴブリンフォークは周囲を山に囲まれた盆地であるが、本拠点はその中央にある茶碗を返したような丘の頂上に位置している。
三人はそんな本拠点前にうっそうと生えている木々に身を潜め、様子を窺っていた。

「静か過ぎる……」

オスカーはそう声を漏らした。
確かに、この周辺で戦闘があった形跡は残っているが、今は人っ子一人居ないのではないかと思うほどに静かだ。
もしかすると、既に制圧されたのかもしれないとフィルは思ったが、それでも人気が無さ過ぎることに違和感を覚えている。

「先導するぜ」

スカウトであるガーランドは、気配を消して『ハイド』状態になると、本拠点の大扉の前まで近づき、周辺の様子を調べた。
明かりはついているが、ただそれだけである。不気味であった。
安全が確認できたのか、こちらに手を振っている。

「……オスカー、行ってみよう」

フィルは手を振るガーランドを見て、オスカーと共に拠点の内部と移動した。
そこで、彼は異様な光景を見ることになる。

「……っ」

フィルは、ゴブリンフォークの防衛兵が見るも無残に倒れていることに気がついた。
この広間一体の死体は全て焼死体であり、防具は焦げ、体は焼け爛れて皆絶命している。

「……異常だぜ。まとまって行動するか?」
「いや、もう敵は居なくなっているかもしれない。生存者を探そう。
 何かあったらクリスタルで連絡を取り合おう」
「了解」

三人はここで分かれて行動することになった。
ディランは無事だろうか……フィルはそう思い、ゴブリンフォーク本拠点の病室へと足を踏み入れた。
病室内は魔法による戦闘の跡があり、ディランを看護していた兵士の死体がここにあった。
その胸部には『穴』が空いている。何かヤリのような物で貫かれたのだろうか……。

「……ここには居ない、か」

使用中のベッドは二つあり、片方はディランのもので、もう片方はイヴのものだと推測できるが、
フィルが見る限り、二人ともここには居なかった。機を計って脱出に成功していると考えるのが理想だが……。

そうして彼が部屋を出ようとした瞬間、それ程遠くない所で爆発音がフィルには聞こえた。
足元が揺れる程の強力な爆風の魔法……彼は、ある人物を一人思い出す。

「まさか……!」

フィルは、爆発音のした方向へと走り始めた。
その方向は部屋でいうと、司令官が指示を出すブリーフィングルーム……!


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階段を駆け上がり、フィルがその奥の扉を蹴破る。
扉の向こうには、ファリス装備を身に纏ったソーサラーと、その男に片手で持ち上げられる瀕死のスカウト……ゲッダス・レッグマンが居た。

「フ……フィル様……」
「ゲッダス!!」

フィルが入ってきたことを見たそのソーサラーは、ニヤリと薄笑いを浮かべると、
右手に魔力を込め、その手で持ち上げている男を一瞬で焼き尽くした。

「会いたかったぜ……ランスさんよ」
「ロイズ……貴様――っ!」

気がつけばフィルは刺突剣を抜き、『蒼き焔』に飛びかかっていた。
そして突き出される刺突剣をロイズは杖でやすやすと弾くと、彼は余裕の笑みを見せた。

「はっはァ!いつもより威勢が良いじゃねえか!」
「まさか貴様の軍団がゴブリンフォークを狙うとは――」

ロイズは不敵に笑いながら、『軍団』と言われたことに首をかしげる。

「俺の『軍団』?
 笑ぁわせんなよ、こいつらは俺一人で十分すぎる程にザコだったなァ」
「一人……!?まさかこの兵士達を一人で……!?」

刺突剣を構えるフィルに、動揺の色が見える。
それを見てロイズは、さらに不気味に、不敵に笑う。

「そうだ!俺はお前と戦いたくて、お前を殺したくて!
 この囮作戦に協力しただけさ……!お前を釣るためになァ!」
「――ロイズ……!」

その挑発的な様子は、フィルを更に激昂させるには十分過ぎた。

「僕は――貴様を許さない!」
「いいぜ……手前にも、そういう怒りをぶつけて貰わなくちゃ……こっちとしてもやりがいがねえんだよ!!」

そう言って、彼が魔法の詠唱を始めた時、一人の男が部屋に駆け込んでくる。

「さっきの音はここか――フィル隊長!?」

部屋に入ってきたオスカーとガーランドだったが、刺突剣を構えるフィルと、それに対峙するソーサラーを見て、現在の状況を把握する。
遅れてガーランドも部屋に入る。

「オスカー、ガーランド!
 これは……反乱軍が、僕達をアンバーステップから引き離すための陽動作戦だったんだ!!」
「なにィ!?」

ガーランドが驚嘆の声を上げた。

「……僕はどうやら、ここで『蒼き焔』と決着を付けなきゃいけないみたいだ!」
「隊長……」
「多分、アンバーステップでこれから決戦が始まる!二人は急いで戻って、第一部隊を支えてくれ!」

オスカーとガーランドは、二人で見合っていたが、フィルが非常に珍しく怒りを顕にしているのを見て、その場で敬礼をした。

「隊長、死ぬなよ!」

そうして二人は踵を返し、部屋から飛び出していった。
この部屋に残るは、鎮圧軍第一部隊隊長のフィリップ・スコット・ランスと、カセドリアの雄、『蒼き焔』のロイズ・レイシュトルム。
二人の死闘が始まろうとしていた時、アベル渓谷に駐屯する反乱軍は、アンバーステップに向けて進軍を開始していた。


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